クロストーク

一流のアーティスト=
本物を呼ぶということを引き継いでいきたい

一流のアーティスト=
本物を呼ぶということを引き継いでいきたい

販売部 広報・宣伝
田里 光平
Kohei Tasato
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制作部 企画・制作
有田 直子
Naoko Arita
事業の大きな柱となる公演制作の中核となる制作部 企画・制作担当の有田と舞台芸術の魅力を伝える財団の顔である販売部 広報・宣伝担当の田里。中心となって活躍する2人に、ひとつの舞台を作り上げるために大切にしている思いやエピソードを聞いてみました。

常に5、6年先を見据えて、公演の準備をしています

Cross talk 01

――まずはお仕事内容について、お聞かせください。

田里
大まかにお話ししますと、有田さんたちが企画・制作された公演を、私たち販売部が宣伝し、チケットを販売するという流れになります。

有田: 
企画・制作は、例えば2021年で16回目になる〈世界バレエフェスティバル〉でしたら、3年に一度のイベントですので、3年かけて準備をしています。一方、「ミラノ・スカラ座」は1981年にNBSの創立者である佐々木忠次さんが紆余曲折ありながら16年掛けてようやく招聘できるようになり、その後は5、6年に一度のペースで公演ができているので、公演が終えると同時に次を見据えて準備をしています。

Photo : Kiyonori Hasegawa

田里
現在はほぼ毎月のように公演があります(※)。東京バレエ団の海外公演や地方公演を含めると、年間100公演近くやっています。 ※非常時を除く。

有田: 
公演が決定すると同時に会場を押さえますので、現在ですと2025、6年ぐらいまでの作業をしていることになります。日本はオペラやバレエができる機構を備えた劇場が少ないので、劇場を必要な期間押さえる作業が一番苦労するんです。

Cross talk 02

――カンパニーを招聘した後の流れについてお聞かせください。総勢ではかなりの人数になるのでしょうか? また、スタッフはどのぐらいいらっしゃるのですか?

Photo : Kiyonori Hasegawa

有田: 
人数は、一番多い時で750人でした。実はそれが私の初めてのスカラ座だったので、かなりショックでした(笑)。スタッフは2019年秋の英国ロイヤル・オペラでしたら、事務局芸術方面の演出家陣、装置、照明や衣裳担当の方々が50人以上来日しました。それに加えて、日本側で揃えてほしいスタッフの指示も受けます。その際にすごい人数を提示されることもあるので、少し多いのでは?と交渉するわけです(笑)。それでも日本サイドで総勢60〜100人ぐらい必要になります。

田里
エキストラを手配することもあります。例えば、何歳ぐらいで身長はどのぐらいと細かい指定をされることもあるので大変です。それから通訳も手配しますが、一口に通訳と言っても役割はさまざまです。舞台設営や進行につく方、事務局や出演者につく方、取材時の通訳、全て異なる要素と細かい気配りが求められます。

有田: 
特に舞台は専門的な世界ですので、英語やフランス語ができるだけではダメなんです。

いいものは確実にお客様に伝わる。だから、崩せないものがある

Cross talk 03

――舞台装置の輸送も仕事の一環ですよね? どのぐらいの量や期間になるのですか?

有田: 
先ほどの英国ロイヤル・オペラの時は、2演目分で40ftコンテナが20数本。日本に到着したら、それを11tトラックに積み替えて運ぶのですが、コンテナ10本でだいたいトラック15台になるので、トラック30台分になります。スカラ座の場合は、スケールが違います。2003年の「オテロ」は40ftコンテナ40本だったので、「オテロ」だけでトラック60台。輸送には海運で約3カ月かかりますが、夏休みを挟む場合は4カ月前には準備しています。

田里
それらを会場に搬入するだけでも大仕事で、1台分の荷物を下ろすだけで40分〜1時間はかかりますから、搬入となると1日では足りません。

Cross talk 04

――来日から幕が上がるまではどのぐらいの日程を要するのですか?

有田: 
スカラ座の場合ですと、来日してから11日か12日目に開きます。まず搬入、仕込み、照明をやるだけで4、5日かかります。そこから場当たりのリハーサル、コーラスや歌手の稽古に入れるのです。スカラの場合は歌手の音楽稽古を必ずやりますので、その後、立ち稽古を経て、合唱入りのピアノ稽古に移行します。それからオーケストラを入れての練習を1日で2、3回してから、ようやくゲネプロとなるので、だいたい11日か12日要するのです。

田里
カンパニーにとって国も会場も違うところで公演するので、ベストな状態に持っていくまでには時間を要するんですね。しかし、いいものはお客様に確実に伝わりますので、お客様のためにもそこは崩せません。アーティスト・ファースト、カスタマー・ファーストがNBSのDNAなのです。

Cross talk 05

――数々の公演を経験されてきたお二人にとって、一番心に残っている演目は何ですか?

Photo : Kiyonori Hasegawa

有田: 
やはりカルロス・クライバー指揮の「ばらの騎士」(1994年)です。

田里
伝説的な指揮者で、キャンセル魔で有名な方なんです。94年の時はウィーンで3回しか振らなかった「ばらの騎士」を日本で6回振るということで、彼が本当に来てくれるのか心配だったんですよね。来日後、日本公演の本番を録画して良いかと聞いたらダメだと言われてしまいましたが、とても手応えがあったようで、あとでどうして録画してないんだと言われたという話を聞いています(笑)。

有田: 
そうそう。私は照明さんの横の特等席で観ることができたのですが、本当に素晴らしかったです。

Photo : Kiyonori Hasegawa

田里
私は、1番は決められないですが、映像でしか観たことのなかったアーティストの方のリハーサルを観た時は驚きました。一流の方達はリハーサルから違うんです。手を動かしただけで、空気も動くんです。

有田: 
一流の方はやはり出てくるものが違いますね。自ずとお客様に与えるものも違ってきます。

バレエやオペラに詳しくなくても、学べる環境もある

Cross talk 06

――バレエやオペラに詳しくなくても働くことはできると思いますか?

有田: 
生で観たことがなくても、芸術に興味があったり、好きであれば良いのではないでしょうか?

田里
僕は演劇やオペラは好きでしたが、バレエは全然詳しくない状態で入って、有田さんや他の方たちに教わりました。資料がたくさんあり、自発的に勉強しようと思えば学べる環境もあるので、詳しくなくても問題はないと思います。

Cross talk 07

――働く際に大切なことは?

有田: 
創立者の佐々木さんに、「ノーは決して言うな」と言われました。ノーというのではなく、じゃあこっちはどう? それがダメならこっちはどう?と提案することが大切だと思います。それからNBSの仕事に向いているのは、アーティストに誠心誠意捧げられる人ですかね。そして、現場ではチームワークが欠かせませんから、周囲とのコミュニケーションも大切です。

田里
東京バレエ団のダンサーも含めて全員の顔を知っている環境ですので、アットホームな職場であると思います。

Cross talk 08

――最後に今後の目標をお聞かせください。

田里
たくさんありますが、2020年には念願叶ってフィギュアスケーターの方とのコラボが実現しました。今後も自分が「やりたい」と思う異分野の方々と提携した企画を実現させ、バレエやオペラを多くの方に親しんでいただけるものにしていきたいと思っています。

有田: 
一流のアーティスト=本物を呼ぶと言うことは、佐々木忠次さんが昔からこだわってきたことですので、私たちも引き継いでいきたいと思っています。